2023年5月28日 山田太一シリーズ『男たちの旅路』を観る

NHKオンデマンド山田太一シリーズ『男たちの旅路』(1976)を観始めた。……といってもまだ1話目なのだが、この時点で色々と思うところがあったのでメモしておきます。

 

 

まず、ゴダイゴミッキー吉野グループ)による音楽がめちゃくちゃクオリティ高いジャズ・ファンク。サンプリングしたくなるようなフレーズがたくさん出てくるので、最初はストーリーに集中できなかった。サウンドトラックのLPが比較的お手頃価格なので見つけたら買ってみよう。

 

ある警備会社の司令補・吉岡(鶴田浩二)は、普段は寡黙な男だが「若者が嫌い」で、ブチ切れると圧倒的な強さで暴力をもって若者をねじ伏せてしまう。1話は、そんな警備会社に入ってくる若者たちとの衝突から始まる。

 

当時(1970年代半ば)の若者なのでシラケ世代、うちの両親くらいだ。そのうちの二人、杉本(水谷豊)、柴田(森田健作)と吉岡でビルの警備をするのだが、杉本がすごいチャラチャラしていて反抗的なので当然吉岡はいら立ってるし、時にキレて殴る。しかしそれでもチャラい態度を崩さない杉本がなんかすごい。昔の若者はこんなに徹底的にチャランポランだったのか? 一方の柴田は若者でありながら、吉岡の厳格さに引かれ、徐々に規律を守るスタンスになっていく。そんな柴田を茶化す杉本がいきなり「ファシストじゃねえか」と、まるで今のTwitterみたいなことを言い出すのがちょっと面白い。どうしようもない世代間断絶が露呈したまま仕事が続く中、彼らが警備するビルから飛び降りようとする自殺志願者(桃井かおり)が登場し…。

 

古い作品に触れるとき、現代とのギャップを見出すのは楽しい。ギャップでありながら、当然現代とも地続きである。ここに出てくる「若者たち」は、2023年の今だと定年前後の年齢だろうか。そして、キレてしまう吉岡の姿に現代の人々は眉をしかめるかもしれないが、物語の中で、彼は先の戦争で特攻隊の生き残りであったことが明かされる。当時は「戦後30年」、つまり、かつて戦争に兵士として参加していた人間が「会社の上司」になっていた時代。さらに、吉岡を演じている鶴田浩二自身が、実際に特攻隊出身者だったのだ。

 

対して、規律を嫌がり、暴力を拒否し、テキトーに仕事をする杉本も、今では見かけないタイプ、というかちょっと信じられないような存在だ。テキトーでいるために上司にタメ口で対応し、仕事中にふざけ続け、全力で反抗する。大げさに言えば自由を追い求め、管理社会に反抗しているのだ。これこそが本来の意味でリベラルだ。「ちゃんとしなければならない」とリベラルの方が規律を志向してしまう昨今の風潮においては忘れられつつある点でもある。そんな「戦後世代」である杉本が自由になるためにかなりのリスクを取っている姿は胸を打つものがあり(ただふざけているだけなのだが)、正反対であるはずの吉岡と何か通じ合ってしまいそうな雰囲気も示されている。ここがこれから気になるところ。