今年もお世話になりました。+よかった本4冊

今年はいつもよりは多めに読書をしましたが、そのなかでも現代に直結するであろう本について軽くレビューします。

 

内務省衛生局 編『流行性感冒』(平凡社

100年前に起こった「スペイン・インフルエンザ」の感染状況を、当時の内務省が分析した記録。海外の状況も充実しており、ネットもない頃によくここまで。当時の名もなき官僚たちの仕事に敬服。今年の4月頃にはpdfを無料公開していました。そんな平凡社さんの心意気にも敬服。

 

速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(藤原書店

「スペイン・インフルエンザ」については上記の書籍くらいで、じつは記録がちゃんとまとまっていない。現在と同じような世界的パンデミックにも関わらず不思議なんだけど、第一次世界大戦中だというのもあったと思われる。各国があまり情報を出さなかったので、中立国だったスペインに入ってきたときにようやく言及されるようになったため「スペイン」という名前になってしまったという経緯は初めて知った。地方紙なども含めてひたすら当時の新聞記事などを掘って全体像を明らかにしていく作業に頭が下がります。著者は2019年に逝去しており、もし御存命であれば現在をどう見ていただろうかと考えてしまう。

 

美馬達哉『感染症社会』(人文書院

今年7月刊行、その時点までのCOVID-19状況をさまざまな面から分析している。疫病とはすなわち社会の問題であり、ひとつのスペクタクルでもある。というのは頭ではなんとなく理解していても、自分のような素人には追い切れない部分があり、ここまで精緻に語られるとただただ圧倒される。かつ、過去の「感染症映画」をカジュアルに紹介していたり、文化系にも入りやすい。これぞ総合的知性という感じ。。キーワードは「生政治」。

 

市野川容孝『身体/生命』(岩波書店

かつて世紀の狭間に刊行されていた岩波の「思考のフロンティア」シリーズは、いまこそ読まれるべきかも。ここ数年のインターネットを騒がせている話題の数々がコンパクトにまとまっており、思考が整理される。この本ではフーコーの「生 - 権力」の内奥に入りこんでおり、「近代」を考えるならまずはここからだと思う。そういえば鶴見済『檻のなかのダンス』(太田出版)も、いわゆるレイヴとサブカルというイメージかもしれないが、じつはフーコーを噛み砕いて説明しており、中学生だった僕はたいへんに触発されたのだった。そんなわけで読み返したりもしていた。来年の自分のなかで柱としたいテーマ。

 

 

そんなわけで、今年は1月のTVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』刊行に始まり、さまざまな方にお世話になりました。なかなか外出もままならない状況ながら、素晴らしい方々との出会いも多く、知的刺激は例年の5割増くらいだったかもしれない。来年もどんどん行きます。どうぞ宜しくお願いいたします。